「美しいひと」美容師×大学ぱろ。

大学の行き帰りによく通る華やかな商店街通り。
様々な飲食店などが賑わいを見せている。中でもメイン通りには有名なクライン財閥の令嬢ラクスクラインが経営している美容院が巷で話題を呼んでいる。
通りかかるたびに清楚感がある雰囲気に自分には似合わないなと思い横切るだけだったがふと隣に並んでるこじんまりとした作りのお店に目が入った。同じように美容院なのだろけど殆ど誰かいる様子もなく練習用のマネキン相手に黙々と向き合う美容師らしい青年の姿が目に入った。ふと目にした真剣な顔付きの横顔に胸が騒つく。何より窓越しに見るその流れるように精錬された軽快なハサミ捌きが綺麗だと思った。
それから毎日のようにこっそりとその姿を見るのが日課になっていたのかもしれない。
今日も何となく彼の姿を確認しようと覗いた瞬間窓越しに目があった。


「あっ・・・」

「あの・・・いつも見てますよね?良かったら今ヘアセットとかお試しとか出来るので」
「えっ、あっ、いや!!」

 

しまった!と後ろに後ずさるが時既に遅く大声を上げてしまい色んな人の注目を浴びて断れない状況になってしまった。
ため息を小さく溢して心を決めてお店の中へと足を踏み入れる。


「・・・じゃあ少しだけ」
「ここに座って」
「あの他に人はいないんですか?」


そう言えばこの人以外見た事がなかったなぁっと思った。


「俺一人でやってるんだ。だから一人しか対応出来なくて」
「へぇ」

毎日見るようになって思っていたが素人の自分が見ても凄い技術だと思うのに隣の美容院に比べていつも人が居る気配がない。

 

「ただ友人がきてくれるんだが殆ど人来ないんだ」


それは良い事なのか?わからないがいつもマネキン相手にしてるのはそう言う事だったのか。
しかしだからといって経営に困ってるとかそんな空気ではないような?お店の設備も普通に悪くないように思う。もしかしてお金持ちなのかな?と思った。

 

「あの私はカガリユラアスハと言います。あの・・・」

 

名前聞いてもいいのかという戸惑いがちな目線を送るとあぁと青年が笑う。


「俺はアスランザラ、アスランでいいよ」
「じゃあ私もカガリで」


なんかお見合いみたいな会話だな、っと思いながらアスランに促されるままに椅子へ座る。


「じゃあ少し髪触るから楽にして」
「あぁ、はい」


なんか緊張するなぁ、と思いながらも慣れた手付きで髪を梳かしていくアスランの姿を鏡越しに眺めた。
近くで見れば見るほど綺麗な顔をしている。確かに隣のお店もいいがこの顔面なら人気が出てもいいはずだなのだが殆ど人が居る気配がない。


「すまない、つまらないよな?」
「えっ?」

「俺はその口下手でなかなか上手く話せないから・・・」

「そんな事ない!あ、すみません」
「いえ、あの敬語とかいらないから楽に話して」

 

頭をポリポリ掻きながらアスランが笑う。
こんな笑い方をする人なんだ。


「ほら、出来た」
「わっ、凄いな」


自分じゃないみたいな感覚に捉われて思わず鏡の自分を見た。その瞬間翡翠の瞳と目が合う。
鼓動がドキッと跳ねる音がした。なんだろうこの感覚なんか緊張してきた。

 

「また来てくれるか?そのこんな事ぐらいしか出来ないけどカガリが来てくれると嬉しいよ」

 

こんなの営業トークだとその言葉に深い意味はないと思いつつカァッと顔が赤くなった。

 

「わ、私で良いならいつでも・・・」
「あぁ、ありがとう」
「じゃあまたなアスラン

 

ぎごちない笑みを浮かべて背を向ける。
お店の外に出てふと鏡に映った自分に笑みが溢れた。

 

「こんなに凄いのにもったいないよな」

 

普段の自分ではないような姿にまるで魔法かかったような感覚になってカガリはお店を後にした。

 

 

おわり。